銀齢の果て

筒井康隆氏の小説「銀齢の果て」が面白いと耳にし、さっそく読んでみました。

 

増大した老齢人口を調整するために、国策で70歳以上の国民に殺し合いをさせる「老人相互処刑制度(シルバー・バトル)」が開始したというストーリー。

裏表紙に書かれた突飛な内容の粗筋に期待を込め読み進めていきました。

 

一定区域内で70歳以上の老人が、最後の1人としての生き残りを賭けて殺しあう「老人相互処刑制度」。様々な経歴を持ち様々な性格をした老人たちが武力・知力・財力と、アイデンティティをもって戦ってくこのバトルロワイアルが、一種シュールとも取れるような調子で描かれていきます。描写が生々しく現実的でありながら、暗くなり過ぎるようなこともなかったような印象を私は受けました。

 

さて、ストーリーこそ常識から逸脱したような内容ですが、背景となっている部分は現代の日本への問いかけでもあります。平成26年の日本の高齢化率は26%となっており、超高齢化社会の基準である21%を大幅に上回っています。この作品の舞台は近い未来の日本であると言えるでしょう。

 

老人という生物的な弱者に対する過剰な優しさ、保護が老齢人口の増大を招き、結果としてそれが害となっている、といことが作中で語られています。手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」にも似たような問いかけがされています。人を治すことで人口が爆発的に増え、その結果飢餓で人が死んでゆく。医者はなんのためにあるのか、と。

 

自然の摂理に反する人の手による過度な延命、保護に起因する社会の歪みと人間の倫理道徳とのバランス、、、長生きは善か悪かは永遠のテーマのように私は思います。

 

このような難問でありながら、やはり本編は所々笑いながら読めるエンタテイメント的内容になっており、このあたりの塩梅が作者の力量を表しているのでしょうか。

極めて非日常的なストーリーから問いかけられる極めて現実的なテーマの作品でした。